[天] 菜畑に見え隠れする帽子かな(霊峰)
[地] 雛飾り老いて並びし笑顔かな(無尽)
[人] 茶の脇に赤福一つ伊勢に春(白堂)
[人] 鶯の初音つたなき朝かな(霊峰)
〈寸評〉
俳句には視点の移動というテクニックがあります。
「小・近景・具体 ⇄ 大・遠景・抽象」の関係と言ったらいいでしょうか。「遠山に日の当たりたる枯野かな」(虚子)「倒れたる案山子の顔の上に天」(三鬼)などがいい例でしょう。
「茶の脇に~」の句もこのテクニックが生きてます。近景を具体的に描写したあとの「伊勢に春」は、読み手に様々な具体的イメージを想起させます。面白いことに、逆にすると全く印象が変わります。「伊勢の春赤福添えし薄茶席」…イメージが全然広がりませんよね。